プラハからの夜行──とはいかず、プラハを朝に出発して飛行機でコペンハーゲンへ向かった。バルカン半島から東欧をずっと陸路で移動してきたわたしにとって、北欧はなんとなく別の世界のような気がしていた。今までヨーロッパの夏の熱気のなかにいたのに、コペンハーゲンの空気は少しひんやりとして、どこかリセットされるような感覚があった。
歩くだけで気持ちいい──Strøgetとまち歩き



コペンハーゲンの中心部にある歩行者天国、ストロイエ(Strøget)は、ヨーロッパでも有数の長さを誇る歩行者専用ストリートだ。ブランドショップからローカルの雑貨屋、カフェまでいろいろなお店が、古いレンガ建築やカラフルな建物に入っている。ハイブランドもローカルな店も、どれも街並みに溶け込む。

街の中心にあるKongens Nytorv(コンゲンス・ニュートー、王の広場)は、騎馬像のまわりを地元の人がランニングしていたり、子どもが走り回っていたりして、公園として使われている感じがした。


コペンハーゲンは運河の街でもある。特に目的地を決めずに運河沿いを歩くだけでじゅうぶん満足できる。緑色の尖塔がひょっこり顔を出したり、カラフルな建物が水際に並んでいたり、石橋の下にボートが集まっていたり。
ニューハウン──絵本みたいな運河


コペンハーゲンで絶対に来たかった場所がニューハウン(Nyhavn)だ。カラフルな建物が運河沿いにずらりと並んでいる。ずっとあこがれていた景色が、目の前にある。本当に絵本みたいで、ワクワクがとまらなかった。
ニューハウンは17世紀に掘られた運河沿いに、商人や船乗りたちの暮らしが積み重なってできた街。運河にはヨットや船が浮かんでいて、みんなそれぞれテラス席でビールを飲んだり、石段に腰かけておしゃべりしたりとくつろいでいる。

ニューハウンは天気のいい日と曇りの日で、まったく別の顔を見せてくれる。晴れた日の青空×カラフルな建物はすばらしいけど、曇り空のときはしっとりと落ち着いた色合いになって、それはそれでよい。
アマリエンボー宮殿とマーブル教会

ニューハウンから歩いて10分ほどで、アマリエンボー宮殿(Amalienborg)に着く。デンマーク王室の住居で、4棟の宮殿が広場を取り囲むように建っている。広場の中央には馬に乗ったフレデリク5世の銅像。衛兵交代式のタイミングだと人がどっとくるらしいけど、わたしが行ったときはそんなに混んでいなくて、のんびり眺めることができた。入場は無料で、外から見るだけでじゅうぶん迫力がある。

宮殿のすぐ真向かいにそびえ立つのが、フレデリクス教会(Frederiks Kirke)。通称「マーブル教会」とも呼ばれ、ローマのサン・ピエトロ大聖堂を参考にしたとされる巨大なドームが特徴だ。外からでも圧倒されるんだけど、なかに入るとさらにすごかった。

丸い天井が高くて、木製のベンチが整然と並んでいる。装飾は派手すぎず、でも細部まで丁寧で、なんとなくすわって上を見上げたくなる空間だった。静かで、しばらく無言で座っていた。

マーブル教会から少し歩いたところに、赤レンガに金色の玉ねぎ型ドームが乗ったロシア正教会(デンマーク語名:Den Russiske Kirke)がある。このロシア正教会は建物のデザインが周囲とまったくちがって、存在感がすごい。
カステレット要塞と人魚姫


マーブル教会から北へ歩くと、カステレット(Kastellet)という星形の要塞が出てくる。17世紀に建てられた軍事要塞で、いまも現役の軍施設として使われているらしく、入口には本物の衛兵が立っていた。
要塞の内側は公園として開放されていて、地元の人がジョギングしていたり、犬の散歩をしていたりする。のどかな雰囲気だった。


カステレットのすぐとなりにある聖アルバン教会(St. Alban’s Church)は、英国国教会の教会。堀に囲まれていて、尖塔が水面にくっきりと映り込む。晴れの日の青空のもとで見るととくにうつくしくて、思わず立ち止まってしばらく眺めていた。

要塞の土塁からは海が見える。船やボートが浮かんでいて、なにもない水平線がのびている。ただぼうっと海を見ていた時間が好きだった。

カステレットから歩いてすぐ、ついに人魚姫の像(Den lille Havfrue)とご対面。アンデルセンの童話をもとに、1913年に彫刻家エドヴァルト・エリクセンが制作した銅像だ。岩の上に腰かけて、海のほうを向いている。小さい。観光客が集まっていなければスルーしてしまいそうな感じ。ちょっぴりがっかりしたのはわたしだけじゃないと思う。それでも実物を目の前にすると、「あ、本物だ」という不思議な感慨はある。
海辺のコンサートとデンマークビール

散策中にたまたま海辺でこじんまりとしたコンサートに出くわした。港に浮かんだテントのようなステージで演奏されていて、周辺にはたくさんの人が集まっていた。みんなビール片手に座ったり、石段に腰かけたり、思い思いにくつろいでいる。演奏のクオリティもしっかりしていて、これを目当てに来ていたわけじゃないのに、結果的にいちばんコペンハーゲンらしい時間になった気がする。

演奏を聴きながら飲んだのがデンマーク産のビール。写真にあるのはTuborg GroenとTuborg Classic、そしてCarlsberg(カールスバーグ)の3本。カールスバーグはコペンハーゲン創業でデンマークを代表するビール。日本でも飲んだことがあるけどけっこう好きな味。TuborgもCarlsbergグループ傘下のデンマーク産ビール。飲み比べてみたらどれもすっきりしていて飲みやすく、フルーティーさもある。音楽と夕方の海風と一緒に飲むビールが、最高においしかった。
救世主教会とクリスチャニア

ニューハウンのとなりのエリアに、救世主教会(Vor Frelsers Kirke)がある。特徴はなんといっても螺旋状に巻きついた塔の外部階段。ぐるぐると上まであがれるらしい。のぼらなかったけど。


救世主教会のすぐ近くにあるのが、クリスチャニア(Christiania)。1971年に廃軍施設を占拠したヒッピーたちが自治社会を形成したのがはじまりで、いまも独自のルールで運営されている「自由の街」だ。デンマーク政府との長い交渉の末、現在は法的な地位が認められているらしい。入口からして独特のオーラがある。カラフルなグラフィティだらけの門をくぐると、急に空気が変わる。



なかはアーティスティックというか、ちょっとカオスというか。壁という壁にグラフィティが描かれていて、廃材やさびた道具が転がっていて、ポスターが何枚も重ねて貼ってある。コペンハーゲンののどかな街なみとは一転して治安が悪そうな雰囲気。
そして写真を撮ったら、ザ・ヒッピーな感じの男性に「NO PHOTO!」とものすごい剣幕で怒られた。
クリスチャニアにはエリアによって撮影禁止のゾーンがあって、とくに「プッシャーストリート」と呼ばれる場所(大麻が黙認されているとされるエリア)は撮影厳禁として知られている。知らなかったので、急にどなられておどろいた。「ここは写真はだめです」というより「カメラをしまえ」という感じで、かなり焦った。
運河沿いをのんびり歩く



運河沿いを散策。ハウスボートがいくつも停まっていて、なかには洗濯物が干してあったり、植物が置いてあったりして、普通に暮らしているみたいだった。カラフルな船、たくさんのヨットが浮かぶ港、ぎっしり並んだボートたち。どれも絵になる。コペンハーゲンは歩けば歩くほど写真を撮りたくなる街。
Kongens Nytorv からチボリ公園へ

Kongens Nytorv周辺を歩いていたら、建物にデニム素材の布が大量にアーチ状に取り付けられたアート展示に出くわした。後で調べたらCharlottenborg宮殿で開催されていたアートフェアのインスタレーションらしかった。街角でこういうものに突然出くわすのが、コペンハーゲンらしいというか、芸術や文化を日常のなかに組み込もうとしている気風を感じた。

広場の一角にある黒い屋根の小さなキオスクも売店とは思えない街への溶け込み方。

夕方の光を受けた市庁舎(Rådhuset)も、なかなかよかった。レンガ造りに夕陽があたると赤みがかって、夏の夜という感じがした。チボリ公園のすぐ近くにあるので、セットで立ち寄ることができる。

チボリ公園(Tivoli)は、1843年開業の世界最古クラスの遊園地のひとつらしい。外観は立派なアーチで、なかはメリーゴーランドや観覧車、ジェットコースターに庭園が混在している。夜のイルミネーションもいい感じになるみたい。わたしは今回は外観だけ見て入場はしなかったんだけど。
デンマーク建築センターで北欧デザインに触れる


コペンハーゲンに来てよかったと思った場所のひとつが、DAC(Dansk Arkitektur Center、デンマーク建築センター)だ。デンマークや世界の建築とデザインに特化したミュージアム。



なかの展示もおもしろかった。インテリアショールームのようなものから大型の木製ドームや折り紙のような構造物までいろいろ展示されていて、建築やインテリアデザインを体感するような空間だった。


虹色に塗られた階段や色のグラデーションを活かした空間も見ていてテンションが上がる。
コペンハーゲン中央駅


移動に使ったコペンハーゲン中央駅(København H)もかなり好みだった。
メインホールに入ると、赤レンガのアーチがどんと広がっていて、ちょっとした聖堂みたいな感じ。なかは木製の骨組みと自然光が差し込む大きな吹き抜けがすてき。Wi-Fiも使えて快適だし、駅構内で軽食も買える。毎日ここから通勤・通学する人がうらやましい。
コペンハーゲンの「デザイン」──自転車と環境
コペンハーゲンの中心街を歩くと気づくのが街の「整いかた」だ。北欧ならではの洗練された雰囲気が楽しめる。

そしてコペンハーゲンはなんとなく「自転車の街」のイメージがあるけど、ほんとうに自転車フレンドリーな街だと感じた。そしてスーツを着た人も、子どもを乗せた親も、みんな自転車で移動している。

電車のなかにも自転車ごと乗り込めるスペースが確保されていた。床に自転車マークが描かれていて、何台もの自転車が車内に積まれている。「自転車でどこまでも行ける」インフラが本当に整っていて、これは日本とぜんぜんちがうな、と思った。街全体のデザインが、車ではなく人と自転車を中心に組み立てられている感じがした。
デンマークの「幸福」の正体
デンマークは物価も税率も高い。たまたま出会った地元の人いわく、平均月収は日本円で100万円くらいらしい。医療も教育も充実していて、高いお金を払っているのは、安心した生活を買っているから。そう考えたら、ふに落ちる。
街にホームレスの方が少ない、と感じた。完全にいないわけではない。おもしろかったのは、ゴミ箱のとなりに飲み終わった缶がそっと置いてあること。デンマークには「パント(Pant)」という制度があって、飲料容器を専用の機械に返すと1〜3クローネ(約20〜60円)が戻ってくる。だから空き缶には価値がある。ゴミ箱に入れずにとなりに置いておくのは、空き缶を回収して生活をしている人が持っていきやすくするための、小さな気づかいなのだ。見て見ぬふりじゃなくて、そっと助ける。
デンマークは「世界幸福度ランキング」で常に上位に入る国だ。街を歩いてみて、なんとなくその理由がわかった気がした。制度でもあるし、空気感でもあるし、お互いへの気づかい方でもある。「人が気持ちよく暮らせるように」という発想が街のすみずみに染みついている。人のしあわせのために街がデザインされている。
コペンハーゲン、住みたくなった。


