バックパッカーがウィーンを歩く|モーツァルトコンサートと街歩き完全ガイド【女ひとり旅】

ヨーロッパ

バルカン半島を縦断してブダペストにたどり着いたあと、次の目的地はウィーンだった。

スコピエ、プリシュティナ、ティラナ、コトル、ドゥブロヴニク、サラエボ——。どこか温かくて独特の空気があったバルカン半島。その旅を終えてブダペストに到着したとき、「あ、都会に戻ってきた」と思った。でも、ウィーンに着いてはじめてわかった。ブダペストも、まだまだ序の口だったということが。

ブダペスト→ウィーン|移動メモ

移動はFlixbus。ブダペストからウィーンまで、だいたい2時間半ほどの道のりだ。

15時45分発のバスに乗り込んだ。あいかわらずの無言発車。アナウンスもなければ、「出発します」的な気配もない。ヨーロッパのバスはいつもこうで、気がついたら動いている。

バスのWi-Fiはカスだった。まったく繋がらなかった。ハンガリーの田舎道を走っていると、風力発電の風車がぽつぽつと立っているのが見えた。それ以外はひたすら平原が続く。

いちばんびっくりしたのは、国境越えがなかったことだ。

ハンガリーもオーストリアも、どちらもシェンゲン協定加盟国。だからパスポートチェックも税関もない。気がついたらオーストリアに入っていた。

バルカン半島では、国境越えのたびにバスを降りてパスポートを出して、ときには荷物検査があって、という手順を何度も繰り返してきた。それがいつのまにかなくなって、スルーできるようになると、「ああ、ヨーロッパのど真ん中に来たんだな」という実感が湧いてくる。

着いた瞬間、空気が変わった

街があまりにすてきすぎる。

そして交通機関がわかりやすい。乗り換えの案内が整っている。キャッシュレスが普通に使える。バルカン半島では現金しか使えない場面が多くて、財布のなかにいろんな国の小銭が溜まっていたのに、ウィーンではカードをタッチするだけで電車に乗れる。「世の中全部キャッシュレスになってほしい」と本気で思った。

ただ、到着してすぐ気づいたことがある。18時前なのに、ショッピングセンターがほぼ閉まっている。スーパーも18時まで。

観光地のど真ん中だよ? 早すぎない?

これはオーストリアを含む中欧の文化で、日曜日や祝日はさらに閉まるのが早い(または終日休業)のが一般的らしい。旅行者は夕方以降の買い物に要注意みたい。

それから朝晩は、8月半ばなのに少し肌寒かった。バルカン半島の夏の暑さに慣れた体には「え、もう秋?」と感じるくらいの気温。でも、歩き回るにはちょうどいい。

ウィーンの電車に乗っていたら、ボーダーコリーが普通に乗り込んできて、そのまま床に伏せをしてお行儀よくじっとしている。ケージもなしで犬がそのまま電車に乗れることにおどろいた。さすが西欧、ペットの福祉が進んでいると感じた。

シュテファン大聖堂(Stephansdom)

ウィーン観光の中心にあるのが、シュテファン大聖堂だ。

正面から見ると、高さ100メートル超えのゴシック様式の塔が空に向かってそびえ立っている。ウィーンのランドマークとして、何百年もこの街の中心であり続けてきた建物だ。

外観も圧倒的だけど、中に入るとさらにすごい。高い天井に、チェック模様の床、奥に向かって続く祭壇。しばらく立ったまま見上げていたくなる空間だった。

ペーター教会(Peterskirche)

シュテファン大聖堂から少し歩いたところに、こじんまりとしたバロック建築の教会がある。

緑色のドームが印象的で、グラーベン通りから路地を曲がるといきなり現れるから、思わず立ち止まってしまった。外観は白とクリーム色で、ウィーンの街並みに溶け込みながらも存在感がある。

内部はシュテファン大聖堂とはまた違う世界だった。床から天井まで、これでもかというくらい金と色彩で埋め尽くされたバロック空間。シュテファン大聖堂はおごそかで、ペーター教会はきらびやかな感じ。どちらも無料で見学できる。

アンカー時計(Ankeruhr)

グラーベンからホーア・マルクト広場のほうへ歩くと、建物と建物のあいだにかかる不思議な時計が見えてくる。これがアンカー時計だ。

アンカーホーフの二つの建物を結ぶ空中回廊に設置されているこの仕掛け時計は、ユーゲントシュティールの画家フランツ・マッチュが設計し、1912年から1914年にかけて制作された。(参照:ウィーン公式観光サイト wien.info

1時から順に12体の歴史的人物が1時間に1体ずつ左から右へ動き、12時間で一周する仕組みになっている。正午のスペシャルタイムには、ハイドンの像が現れて12回鐘が鳴ったあと、残りの11体の像がそれぞれのテーマ曲とともに次々と姿を現す。

わたしが通りかかったのが正午じゃなかったから、パレードは見られなかった。でも、建物と建物をつなぐように架かった時計の見た目だけでも十分おもしろい。存在感がある。

ホーフブルク宮殿(Hofburg)

シュテファン大聖堂から歩いていくと、急に視界が広がって巨大な宮殿群が現れる。

ホーフブルクはハプスブルク家の冬の宮殿として使われていた場所で、増改築を繰り返してきた結果、今では膨大な複合施設になっているようだ。

内部のドーム天井が印象的だった。白を基調とした空間に、繊細な装飾が施されている。

ウィーンでは馬車が観光客を乗せて走っているところをよく見かけた。白い馬に引かれた黒い馬車。絵になりすぎる。「ザ・ウィーン」という光景だった。

ノイエ・ブルク(Neue Burg)/ヘルデンプラッツ

ホーフブルクの一角にある、半円形の形が印象的な建物がノイエ・ブルクだ。

英雄広場(ヘルデンプラッツ)に面していて、その広さと建物の壮大さが相まって、写真を撮るとどうしてもちっぽけに見えてしまう場所。それくらい規模がでかい。

シェーンブルン宮殿(Schloss Schönbrunn)

ホーフブルクが冬の宮殿なら、シェーンブルンは夏の宮殿。

市内から少しはずれた場所にあるけれど、地下鉄でカンタンにアクセスできる。黄色い外壁に、整然と並ぶ窓、左右対称の庭園。ヨーロッパの宮殿建築のお手本みたいな景色だ。

内部は見学ツアーに参加すると入れる。豪華で繊細な装飾はもちろん、6歳のモーツァルトが演奏を披露した「鏡の間」やナポレオンが会議を開いた「漆の間」など、ひとつひとつの部屋にヨーロッパの歴史が詰まっている。冷静に考えてすごい場所だ。

敷地内の庭園も広く、自由に散策できる。

庭園の奥、丘を登ったところにあるのがグロリエッテ(Gloriette)だ。グロリエッテに登ると、宮殿とその向こうにウィーンの街が広がる絶景が待っていた。

市庁舎(Rathaus)

市庁舎(ラートハウス)の前では、ちょうど野外映画上映のスクリーンが設置されていた。ウィーンでは夏の時期、市庁舎広場で「フィルム・フェスティバル・ウィーン」という野外映画祭が開催されるらしい。一部が工事中だったが、存在感の強い建物だった。

ヴォーティフ教会(Votivkirche)

リングシュトラーセを歩いていると、ふたつの細い尖塔が特徴的なネオゴシック建築が現れる。ヴォーティフ教会だ。

わたしが訪れたときはどっぷり工事中で、足場に覆われていた。工事中でも建物の外形は見えるし、それはそれで迫力がある。修繕が必要な文化財が多いのはどの国も同じ。「いつ来ても工事中」というのは、あるある。

街をぶらぶらと

観光スポットだけじゃなくて、ただ歩いているだけでも楽しい街だった。

ガラス天井に覆われたアーケード商店街、

広場に突然現れる銅像、

マーケットの露店が並ぶ広場。

どこを歩いても何かしら発見がある。どの建物も装飾が細かくて、角を曲がるたびに「あ、これも絵になる」という場面が続く。

本場ウィーンでモーツァルトを聴く

ウィーンに来たら、やっぱりこれをやりたかった。

生演奏を聴くこと。

格安旅の途中で、少し奮発した。ウィーン国立歌劇場(Wiener Staatsoper)で開催されたウィーン・モーツァルト・オーケストラのコンサートのチケットを買ったのだ。75ユーロ。当時の日本円で1万円を超える。この旅においてかなりの奮発だった。

でも、ウィーンに来てオーケストラを聴かずに帰るのはどうしても後悔しそうな気がしたから。

中に入ると、大理石の階段、フレスコ画の天井、シャンデリア。それだけで気持ちが引き締まるような空間だった。

ドリンクと軽食・デザートを提供する休憩ルームのような部屋もいくつかある。中を探索しているだけでテンションが上がる。

ひとつ意外だったのが、観客の服装。もっとかしこまっているかと思っていたら、半袖Tシャツにジーンズという人も普通にいた。ドレスコードの厳しいオペラ公演とは違って、このコンサートはかなりカジュアルに楽しめる雰囲気。バックパッカーのわたしでも全然浮かなかった。

20:15開演。席は2階の特別観覧席(ロージュ)5番。正面右側から舞台を斜めに見下ろす位置で、オーケストラ全体が見渡せるいい席だった。チケットを購入した場所に右側(rechts)の席を選んでよかったと思う。トップバイオリニストを正面に見ることができたから。

演奏が始まった瞬間、空気が変わった。

ウィーン・モーツァルト・オーケストラは、歴史的な衣装とかつらをまとったソリストたちとともに演奏する。バロック時代の雰囲気を再現した「音楽アカデミー」スタイルで、交響曲や協奏曲の楽章、オペラのアリアやデュエットなど、知名度の高い曲が選ばれる。(参照:www.mozart.wien

音楽にそんなにくわしくないわたしでも、「これがモーツァルトだ」とわかる有名な曲が次々と演奏されていく。当時の演奏者を表現しているのかカツラを被っているのがちょっと変てこ。エンターテイメント性が高くて、音楽の知識がなくても楽しめる構成になっているのがよかった。

女性ソリストの歌声が響いた瞬間、体に電気が走るような感覚があった。本物の声というのは、スピーカーを通した音とはまるで違う。その空間に音が満ちていくような、身体ごと包まれるような感じ。ちょっと震えた。

コンサートが終わったあと、出口でお姉さんがチョコレートを配っていた。その一粒まで含めて、すごく豊かな夜だった。

1万円出してよかった。

コンサートの帰り道、ライトアップされた国立歌劇場の前を歩きながら、「もっとおとなになって、お金持ちになってまた来よう」と心に決めた。今度は観光向きの演奏ではなく、もっと本格的なところで。それまでに音楽を学んでおこう。

食事・カフェ・ビール

ウィーンはカフェもパン屋もレストランも、とにかくどこもおしゃれだ。

ウィーンも他のヨーロッパと同じくチップ文化。
滞在中、チップを強要されることもあった。

カフェで強引な店員に「このレシートには、チップが含まれていないの。それで、いくらチップを払う?」と威圧的に聞かれたことがあった。なんとなく少ない金額を言いにくい。クレジットで払う時にプラスでチップの分を打ち込まれてそのまま支払い。端数分を切り上げた結果、相場より1ユーロ多く払ってしまった。しかもチップを払ってから店員の態度が急に対応がよくなってちょっとムカついた。

こういう場合にヨーロピアンはどうやって対処しているのかしばらく観察してみると、同じように店員にチップが含まれていないことを説明されても、「後でキャッシュで払うわ」といってクレジットで決済するときには支払わず。後でお店を出るタイミングで机の上に1ユーロをさらりと置いていった。Googleマップには、「チップを強要された」という口コミが多かったのでそういうカフェもあることを知った。本当なら、チップはこころよくお渡しして、お互いに気分よくなりたいものなのに。

オーストリア産のビールを2種飲んでみた。オッタクリンガーは、少しぬるい状態で飲んだのに、びっくりするくらいおいしかった。麦の旨味がしっかりあってバランスがよかった。

もう1つのシュラートミンガー・ビオ・ツウィックルもオーガニック系ビールで、まろやかで麦のいいにおいがした。

ウィーン、住めるわ

この街に来ると、おしゃれしたくなる気持ちになった。街がきれいすぎて、自分もそれに合わせたくなるというか。でも、タウンユースのバックパック1つで旅しているわたしには、余分な服を持つ余裕はまったくない。次に来るときは、バチバチにおしゃれして来よう。

公共交通機関が発達していて、わかりやすい。キャッシュレスが使える。スーパーの食品がおいしい。街がきれいで、歩いていると何かしら発見がある。ウィーンの電車はボタンを押さないと扉が開かない仕組みになっているから、知らないとちょっと恥ずかしい思いをするかもしれない。あとは——ドイツ語を学べばもっとこの街を楽しめると思う。英語は通じるけれど、地元の人と仲良くなるには必要な気がした。

唯一の問題は、物価。

格安バックパッカーにはちょっとつらい。スーパーで買い物しても食事をしても、バルカン半島の感覚とはまったく違う。

学生の私が世界一周中に1日3食をレストランで外食していたら破産する。だからウィーンに限らずだがスーパーを多用している。そしてそんなわたしが気に入ったのがウィーンのチェーンスーパーBILLA。街のあちこちにあって今回とてもお世話になった。

そのBILLAと「Henry」というカフェがコラボした「The Art of Living」というコンセプトのお店が気に入った。外のオープンテラスで食べたり飲んだりできる。中心部にあって、ひとり客が多くて居心地がよかった。

ウィーンはバックパッカー向けの都市ではないと思う。正直。でも、だからこそ、来る価値がある場所でもある。人生のモチベーションにつながるからだ。街のうつくしさ、音楽の本場であること、街角を歩くだけで感じる「文化の蓄積」みたいなもの。それはお金を払ってでも体験すべきことだと思う。

もっともっとおとなになってお金持ちになってまた来たい。21歳のわたしにはウィーンは少し背伸びした都市だったけれど、その背伸びが最高に気持ちよかった。

次の旅先はブラチスラバ(スロバキア)

ウィーンから電車で約1時間。「どうせウィーンに来たなら」と日帰りで寄ってみることにした小さな首都——次の記事はそっちの話。

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