世界一周をしていたとき、自分の中で決めていた3つの掟がある。
「持たない」「待たない」「期待しない」。
このシンプルな3原則さえ守っていれば、たいていのことは乗り越えられる。実際、旅先で起きたトラブルやガッカリするできごとの9割は、この掟でなんとかなってきた気がする。
この3原則を忘れないうちに書きとめておきたい。
持たない
まずは「持たない」から。これには物理的な意味と心理的な意味の2つがある。
物理的な面はわかりやすい。旅はミニマムであればあるほどよい。身軽であればあるほどよい。これはバックパッカーの基本でもある。荷物が少なければ管理もラクだし、心もラク。なにかを失う恐怖もない。本当に必要なもの以外は持たない。それがいちばん。
心理的な面で言うと、持たないほうがいいのはバイアスや「あたりまえ」、既存の価値観。
バイアスを持つのは危険。わたしたちは異国の地におじゃまする立場だから。「あたりまえ」の意識も絶対に持つべきではない。異国の地にとって、わたしのあたりまえは、あたりまえにあたりまえではない。何があたりまえなのかなんて基準は、しょせん主観でしかないのだから。
既存の価値観もそう。フラットにいく。受け入れる。水のように、空気のように、ナチュラルに流れながら飲みこんでいく。それくらいの姿勢がちょうどいい。
待たない
次は「待たない」。これはチャンスを待たない、そして待ち時間を待たない、という2つの意味がある。
受け身でいても、いい機会はやってこない。待つのではなく、取りにいく姿勢が大事。話しかけられるのを待つ、来るのを待つ。そんなことをしていても、思いどおりにいくとはかぎらない。ほしい、やりたい、見たい、聞きたい、しゃべりたい。そう思ったら自分から動く。それが鉄則。
待ち時間を待たない、というのは意外に思うかもしれない。気長に待とうというのがふつうの感覚だと思う。でも、もともとせっかちなわたしにはこれがどうもしっくりこない。飛行機もバスも電車も、そもそも時間どおりに来ないもの。それをまじめに待とうとすると、やってられない気持ちになる。ストライキ中ならなおさら頭が変になりそう。
だから、待ち時間という存在そのものに慣れることにしている。ただひたすら待つのではなく、待ち時間を楽しむ。待ち時間は「待つもの」ではなく「何か別のことをやる時間」にする。それも、できれば作業興奮しないもの、ロングタームで集中できるものが理想。例えば小説とか。旅をしていると、暇つぶしの技術は自然と身についていく。
期待しない
そして最後、これがいちばん重要かもしれない。「期待しない」。
期待なんて、最初からするものではない。勝手に期待するから、時に悲しい思いをするし、イライラするし、ガッカリする。いいことはひとつもない。期待しなければ、どれだけ心穏やかに暮らせるか。
すてきなレストランに入ったら料理がまずくて店員の対応も最悪だった、なんて小さな期待はずれもある。長年夢見ていた遺跡が工事中で入れないかもしれない。どうしても見下ろしたかった景色は、展望台が悪天候で登れないかもしれない。めぐりあえたすてきな人と次の日の約束をしていたのに、結局姿を現さないかもしれない。
期待はずれなんて、旅においてはあたりまえに起こる。期待したことが叶わないのも、旅ではごくふつうのこと。
もしどうしても期待したいのなら、最悪のケースを期待しておく。そのほうが、結果的に幸せな気持ちになれる。考えうる心配ごとの9割は起こらないもの。最悪のケースだと思っていたものが、どんなにふつうの結果だったとしても、良いものに感じられるかもしれない。
死ぬこと以外に、最悪のケースなんてあるのだろうか。死んでしまったら後悔する暇もない。だから、何か悪いことが起こっても「なるようになるさ」でいい。気楽にいこう。
旅だけじゃなく、日常にも
この3原則は世界一周をしているときに、自分の中の掟として決めたもの。でも、これは人生においても同じことが言える。
日常においても、持たない、待たない、期待しない。いい意味で自己中心的に、自責でいく。何ごとも自分の受けとめかた次第。他人に依存しない、状況に依存しない、自分でコントロールする。
それが、幸せに生きるためのひとつのエッセンスのような気がしている。


