大学4年の夏、バックパックひとつで世界を一周した。コロナに夢を奪われ、それでも諦めなかった21歳が、旅から持ち帰った気づきを書いておく。内容は大きく「旅に出たきっかけ」と「旅で得た知見」の2つだ。
なぜ旅に出たのか
コロナに奪われた青春
もともと旅行が大好きで、大学に入る前から「大学生になったらとにかく旅行しまくろう」と決めていた。2019年の入学当初はその通りにできていた。
ところが大学2年生になるとコロナパンデミックが始まり、今までの日常はどこかへ消えた。ハタチになってちょっぴり大人になって、だけどまだ自由の身で、なんだって好きなことができるはずだった人生でいちばん貴重な時期を、行動制限によって奪われた悔しさはとてつもなかった。
ピースボートとの出会い、そして出航中止
大学3年になり就活が始まると、急にこのまま大学生活が終わることへのむなしさを感じた。「今しかできない、普通じゃないすごいことを成し遂げたい」という欲にかられた。
ストレス発散に海外旅行を調べているうちに出会ったのがピースボートだった。居酒屋の壁に貼ってあるあれ。怪しい広告だと思い込んでいたが、よく調べると国際協力活動を行うNGO団体だとわかり、資料請求してみた。気づいたら説明会に参加して、ボランティアをして、たくさんの素敵な仲間に出会っていた。
しかし、2022年8月出航のピースボートは、海外側の港の受け入れ態勢が整わないとして出航中止が発表された。スタッフが深刻な顔で「どうしても口で伝えたくて」と連絡してきた。とんでもない喪失感だった。
それでも、ひとりで行くと決めた
次の回の船でもよかった。でも私にとってこの回がラストチャンスだった。就職先はすでに決まっていたし、休学する余裕もなかった。何より、悔しくて休学という道は選びたくなかった。
だったら限られた時間の中で、自分ひとりで世界一周してやろうじゃないか。出航中止が発表されてからかなり早いスピードで「ひとり旅」に切り替え、結果的にそれでよかったと思っている。
旅で出会った言葉
世界一周中に出会ったことばがある。
“The world is your classroom.”(世界はあなたの教室だ)
まさにそのとおりだとびびっときた。国境越えの長距離バスでセクハラされたり、ひとりでレストランに入れず片っ端から断られたり、荷物を置かせてもらうために一軒一軒交渉したり、騙そうとしてきた人と大喧嘩したり。良いことも悪いことも、いろいろな人に出会い、いろいろな大切なことを教わった。
以下は、21歳の私が社会に出る前に得られてよかったと思う9つの知見だ。
旅で得た9つの知見
【自分の軸】
① 生きる理由・インセンティブ
旅のある日、街を歩いていてふと「私、しあわせだな」という感情が空から降ってきた。世界がうつくしくてうつくしくてたまらないと全身で感じたあの瞬間。「私はもっともっとこのうつくしい世界を見たい。そのために生きよう、そのために働こう」と、心からそう思えた。
自分が生きるインセンティブを、21歳のうちに見つけられたことは大きかった。
② お金を稼ぐ理由
私が稼ぐ目的は「好きなときに好きなだけ世界中を自由に飛びまわること」だ。普段ただ仕事をしていると、何のために働くのかわからなくなりがちだ。大好きな旅に思い切ってお金を使った経験が「また旅するためにがんばろう」という仕事へのモチベーションになる。働く理由が腑に落ちると、日常の見え方が変わる。
③ 自分の判断基準を持つ
そこに行くか行かぬか、お金を払うか払わぬか迷ったとき、私はいつも「これをしなかったら後悔するか?」と自分に問いかけるようにした。ひとり旅は常に自分で決断しなければならない。自分の判断基準を持っておくことが、強く生きる糧になると思い知らされた。
【お金・価値観】
④ お金の難しさと、それでもお金は必要だということ
どの国のどの人も、今日を生きるためにあらゆる手段で知恵をふりしぼっている。そして、なんだかんだお金は必要だ。お金がないと余裕がなくなり、人格が変わることも、人を傷つけることも、誤った方向へ進むこともある。自分の人生を自分主導で生きるために、最低限必要なお金はあったほうがいいと痛感した。
⑤ プライシング思考の重要性
途上国・新興国では値札がない。相手が「日本人だから」という顔で値段を言ってくる。そこで大切なのは「言い値から何パーセント引くか」ではなく、**「自分にとっていくらが妥当なのか」**だ。
すべての商品に値段がついている日本で育つと、誰かが決めた値段を基準にしてしまいがちだ。自分の価値基準に照らして妥当な値段かどうかを問うプライシング思考は、旅だけでなく日常のあらゆる場面で使える力だと気づいた。
【人・言語】
⑥ 旅の価値は人との交流にある
観光スポットよりも、道端で話しかけてきた現地の人との会話や、ホステルで夜通し語り合った旅人との時間の方が、記憶に残り続ける。旅の本当の価値は、人との交流の中にある。
⑦ 言語習得の必要性
英語を話せることがどれだけ自分の人生を豊かにするか。より深いコミュニケーションが生まれ、より深い友情が、より広い出会いが生まれる。日本語を話す人は世界の何分の1?それだけ少ない人としかしっかりわかりあえないのか、それでいいのか。日本語しか話せないことで、どれだけ人生を損しているか痛感した。
【習慣・生き方】
⑧ 暇つぶしの技術は人生を豊かにする
長距離バスや入国審査の待ち時間は、この旅でずっとつきまとう課題だった。スマホをこまめにチェックしては列の先頭を見て、舌打ちして、また確認して——そんな人は常にイライラしている。一方、旅慣れた人はたいてい本を読んでいて、なんとなく余裕がある。真似してみたら本当に心に余裕ができた。
待ち時間は「待つ時間」ではなく、「自分が好きなことを消化する時間」に変えること。同じ10分でも、自分に集中できる10分は一瞬だけど、他人を待つ10分はとてつもなく長い。それをひっくり返せばいい。
【日本を外から見る】
⑨ 日本は知らないところでよく頑張っている
「日本はもうダメだ」は昨今よく聞く言葉だ。しかし世界を歩いてみると、意外とそんなことはない。「日本人はいい人だ、日本はうつくしい、日本の製品はすごい」——車も、カメラも、家電も、世界中の至るところで日本製品を見かける。何もしていないのに「いい人だ、やさしい人だ」というバイアスがすでにかかっている。これはすべて先人たちのおかげであり、少なくとも私はその恩恵をこうむっている。
おわりに
世界一周は、私にとって”死ぬまでにしたいことリスト”のひとつだった。お金も時間も十分にはなかったし、「いつか」叶えたいものだった。
夢を叶えたとき、自分が生きる意味、働く意味を知ることができた。「もっともっとこのうつくしい世界を見たい。そのために生きよう、そのために働こう。」そう思える経験を21歳という社会に出る前に得られたことは、自分の人生の軸を確立するうえで欠かせない経験だったと思う。
もともと自分のことが大嫌いで、変わりたい変わりたいと行動しても変われなかった。でも、自分が本当に心からしたいと思っていたことをしたら、知らぬ間に変わっていた。自分の人生に誇りを持てるようになっていた。
この世はあまりに不平等で、能力も、環境も、言い出したらきりがない。自由に使える時間だって不平等だ。だけど、時の流れと人生が一度きりであることだけは平等だ。
わたしはこの先もずっと、このうつくしい世界を冒険しつづけたい。


