ベオグラード|活気と傷跡が共存する街を、ひたすら歩いた

ヨーロッパ

バルカン半島を縦断してきた。モンテネグロのコトル、クロアチアのドゥブロヴニク、ボスニアのサラエボ。どこもうつくしく、そしてどこかのんびりした時間が流れていた。

ベオグラードはちがう。

バスが到着した瞬間から、街の温度が変わった。車がかっ飛ばしていく。歩く人の足が速い。これまでのバルカン半島の国々とはリズムがちがう。

久しぶりに、活気あるビジーな街に来た。

まずは坂との戦いから

ベオグラードは坂が多い。

なんだかどこに移動するにも汗だくになった記憶がある。キャリーケースの人はきつそうだ。バックパックで来るのがベストだと思う。この街で大きな荷物を引きずるのは、なかなかの試練。

物価が安い

セルビアの通貨はセルビア・ディナール(RSD)。2022年夏のレートで、1ディナール≒約1円だった。

これが旅人には本当にありがたい。ほぼ日本と同じ感覚で計算できるので、頭を使わなくていい。ジェラートが150ディナール前後。食事も750ディナールほど。しっかりディナーを食べてビールを2、3杯飲んでも2,000円以下。

しかもクレジットカードがほぼどこでも使えた。ベオグラードに滞在した間、現金を1円も使わなかった。キャッシュレス旅行者にとっては、このうえなく使いやすい街だ。

スカダルリャ(Скадарлија):石畳のボヘミアン地区

ベオグラードで真っ先に向かいたい場所が、スカダルリャ(Skadarlija)だ。

19世紀から続くボヘミアン地区で、石畳の坂道にレストランやカフェが並ぶ。ベオグラードを代表する文化的な通りのひとつとされている。

石畳の上にテーブルが並び、鮮やかなテーブルクロスと赤いパラソルが連なるテラス席。ブロンズ像が路傍にさりげなく座る。キリル文字の看板と壁画が混在する景色。

かわいさにあふれている。

平日に訪れたので混雑も少なく、ゆっくり歩けた。週末はかなりにぎやかになりそうだ。

カレメグダン要塞:正直な話

ベオグラードを代表する観光地、カレメグダン要塞(Kalemegdan)。サヴァ川とドナウ川の合流地点に立つ中世の要塞で、市内中心部からクネズ・ミハイロヴァ通りを歩いていくと自然にたどり着く。

公園と要塞が一体になっていて、入場は無料。ただし敷地内のネボイサの塔や軍事博物館などは別途チケットが必要で、夏期(4月15日〜10月15日)の開館は11時〜19時となっている。

やる気まんまんで朝から来たもののネボイサの塔は11時OPENだった。

正直に言うと、要塞そのものにはあまりピンと来なかった。戦争や軍事の歴史が好きな人にはたまらない場所だと思う。でもそうでないと、展示を前に「ふむふむ」で終わる。これはわたしの好みの問題だ。

ただ、要塞の城壁の上からの眺めはよかった。

サヴァ川とドナウ川が合流するパノラマが広がる。この場所に要塞を築いた人たちの目には、どんな景色が見えていたのだろうと、そのことだけ考えた。

敷地内に、石造りの小さな礼拝所がひっそりとある。要塞のなかにこういう静かな場所があるのが、いい感じ。

クネズ・ミハイロヴァ通りと街の中心

カレメグダンからそのまま歩いてくると、クネズ・ミハイロヴァ通り(Knez Mihailova)に続く。車が入れない歩行者専用の通りで、ベオグラードのメインストリートだ。

若い女の子がバイオリンを弾いていた。すっと足が止まる。ストリートミュージシャンを見かけるたび、コインをチャリンとしたくなる。すばらしい演出に感謝したい。

通りを歩いていくと、テラジェ広場(Terazije)の白い大理石の噴水が現れる。ベオグラードのランドマーク的な場所で、街の中心に立っている。

さらに進むと、共和国広場(Trg Republike)。広場に面して建つセルビア国立博物館の緑のドームと重厚な石造りの外壁が目を引く。正面には騎馬像。広場のベンチでは人々がゆっくりと時間を過ごしていた。

空爆の傷跡

観光エリアから少し外れた通りを歩いていると、その建物は突然現れた。

旧ユーゴスラビア連邦国防省の廃墟だ。

1999年、NATOによる空爆(コソボ紛争に際する「アライド・フォース作戦」)で破壊されたビルが、20年以上経った今も手つかずのまま残っている。骨格だけになったコンクリートの柱、崩れかけたレンガ。周囲には普通の街が広がっているのに、この建物だけが時間が止まっている。

サラエボでも銃弾の跡が残る壁を見た。ベオグラードでも、戦争の記憶は街のど真ん中に立っていた。

バルカン半島のいくつかの国を旅してきてわかったこと。ここでは歴史を「過去のこと」として片付けない。建物に刻まれた傷のまま、街は続いている。

聖サヴァ大聖堂(Hram Svetog Save):地下礼拝堂が本番

ベオグラードで見ておきたい場所のひとつが、聖サヴァ大聖堂(Hram Svetog Save)だ。

白い大理石の外壁に緑色のドーム。セルビア正教会として世界最大規模の建物であり、外観だけで圧倒的な存在感がある。

ただ、真の見どころは地下礼拝堂(クリプタ)だ。

地下に降りると、空間が一変する。黄金のモザイク画が天井を埋め尽くし、白い石のアーチが幾重にも連なる。光の当たり方で金色がゆらめいて、この空間にいること自体が非現実的に感じられた。

教会めぐり

ベオグラードの街には、あちこちに正教会が点在している。

なかでも聖マルコ教会(Crkva Svetog Marka)は、赤茶と灰色の石を交互に積み上げた独特の外観が目を引く。中世セルビアの修道院建築をモデルにしたもので、石の模様に思わず見入ってしまった。

歩いていてふと目に入った教会に立ち寄る、というのが好きだ。名前も知らない礼拝所に入って、しばらくそこにいる。ベオグラードはそういう時間の使い方がしやすい街だった。

セルビア料理

夕方、スカダルリャの赤いパラソルが並ぶレストランに入った。

煮込み料理。パプリカとトマトの甘みが凝縮されていて、じっくり煮込まれた野菜とお肉がからみ合う。付け合わせのパンと一緒に食べると止まらない。750ディナール。やすすぎる。もっと食べればよかった。

それから別の日には、パスール(pasulj)という白インゲン豆のトマト煮込みと、チーズとパプリカのサラダ。1756年創業のセルビアを代表するビールのJelen(イェレン)ビールとともに。

あとは、ウルネベス(urnebes)というセルビアの定番前菜。パンにのせると、パプリカの辛みとチーズのコクがあわさってたまらない。豆の煮込みもシンプルなのにどこかほっとする味で、お腹も心も満足した。

この日のレストランは庭に噴水があって、ウェイトレスの対応がよくて、雰囲気もいい。ヨーロッパのレストランは演出がうまいから、手ごろな価格だとは最後まで感じさせない。しっかりディナーを食べてビールを2、3杯飲んでも2,000円以下。とてもいい気分だった。

夜の街歩き、犬連れのミュージシャンとの出会い

食後、夜の街をひとりで歩いた。

やはりヨーロッパの街は夕方から夜にかけてがうつくしい。オレンジのライトが石畳に映えて、昼間とはまったく別の顔を見せる。気に入った通りは朝昼晩と通うとそれぞれに味があって、何度通っても飽きない。

ホステルへの帰り道、犬を連れて歩くミュージシャンに声をかけられた。

32歳。家を持たず、Airbnbで場所を変えながら生活しているという。前に日本に行ったとき、子どもたちが列をつくって学校へ向かうのを見て驚いたと言っていた。

「あれって普通なの?子どもなら喧嘩するでしょ?」
たしかに、そういえばそうかもしれない。と笑いながら話した。

「夢はなに?」「人生でいちばんクールな出来事は?」

超絶難問をたたみかけてくる。うまく答えられなくて、帰り道ずっと考えた。1時間後にいくつか思いついたけれど、もう会えなかった。

クセ強め、でも心に残る出会いだった。こういう偶然の会話が、長い旅の記憶に残り続ける。

2泊してわかったこと

最初に着いたとき、正直そこまでぴんと来ていなかった。でも、朝昼晩を過ごしてみると、街の奥行きが少しずつ見えてくる。

テイラナも、ベオグラードもそうだった。

その街の本当のよさは、最低でも朝昼晩の時間帯を過ごしてはじめてわかる。2泊してようやく「いい街だった」と思えるようになる。毎回そう感じる。帰る頃に「もっといればよかった」と思う街が、また増えた。

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